別居したのに、相手が生活費(婚姻費用)をまったく渡してくれない。家賃や子どもの学費の支払いが迫っているのに、連絡しても「余裕がない」と言われるだけで話が進まない——別居中の生活費をめぐるご相談は、当事務所にも数多く寄せられます。婚姻費用は「お願い」ではなく、夫婦の法律上の義務にもとづく請求です。そこで本記事では、婚姻費用を払ってくれない相手から別居中の生活費を確保するための5つの手順と、注意すべき落とし穴を、離婚・不倫のご相談を多く扱う弁護士の視点から解説します。

婚姻費用は「請求した時点」から。まず請求日を証拠に残す
婚姻費用とは、夫婦と未成熟の子どもが生活していくために必要な費用のことで、収入の多い側が少ない側に分担する義務を負うのが原則です。別居していても、離婚が成立するまでこの義務は続きます。
実務上とくに重要なのが、婚姻費用は「請求したとき」からの分が認められるのが一般的という点です。別居から半年経って初めて請求した場合、それ以前の分は認められないことが多く、待っているあいだの生活費は自己負担になりかねません。まずはメールやLINEなど日付が残る形で請求し、応じてもらえないときは内容証明郵便で請求の意思と日付をはっきり残すことをおすすめします。婚姻費用の基本的な考え方や金額の目安については、婚姻費用とは?別居中の生活費を請求する方法もあわせてご覧ください。
話し合いで動かないなら「婚姻費用分担調停」を申し立てる
請求しても支払われない場合、次の手段が家庭裁判所への婚姻費用分担請求調停の申立てです。調停委員を介した話し合いのため、相手と直接やり取りせずに進められる点が、精神的な負担の大きいケースでは大きな意味を持ちます。
申立ては、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定めた家庭裁判所に対して行います。熊本県内であれば熊本家庭裁判所の本庁のほか、八代・玉名・山鹿・阿蘇・天草・人吉といった各支部が窓口です。八代やその周辺にお住まいの方は八代支部が申立先になることが多く、期日ごとの移動負担も考えて準備を進めることになります。費用は収入印紙と連絡用の郵便切手が中心で、手続き自体に高額な費用がかかるわけではありません(金額は裁判所により運用が異なるため、事前の確認が必要です)。
金額は、双方の収入と子どもの人数・年齢をもとにした算定表を目安に、個別事情を加味して決まるのが一般的です。相手が収入資料を出さない場合でも、裁判所を通じて資料の提出を求めたり、源泉徴収票や課税証明書から推計したりする方法があります。
相手のよくある反論と、その受け止め方
婚姻費用を拒む相手の言い分は、実務上いくつかの型に分かれます。代表的なものを挙げます。
- 「自分から出て行ったのだから払わない」…別居に至った経緯は考慮されうるものの、別居を切り出した側だからという理由だけで請求が認められなくなるとは限りません。とくに子どもを連れて別居している場合、子どもの生活費部分は別途考慮されるのが通常です。
- 「収入に余裕がない」…現に支出が多いことと、分担義務を負わないこととは別問題です。働けるのに働かない場合には、賃金センサス等をもとに収入を推計して判断されることもあります。
- 「住宅ローンを払っている」…あなたが住み続けている家のローンを相手が払っているようなケースでは、一定の調整がなされることがありますが、全額が差し引かれるとは限りません。
いずれも「言われたとおりに引き下がる必要はない」論点です。反論の当否は収入資料や住居の状況によって変わるため、早い段階で弁護士に整理を依頼する価値があります。
調停が長引くとき・決まったのに払われないとき
調停は月1回程度のペースで進むため、成立まで数か月かかることも珍しくありません。手元の生活費が尽きそうな場合には、事情によっては審判前の保全処分によって仮の支払いを求められることがあります。生活が立ちゆかない見込みであれば、早めに担当弁護士へ伝えてください。
調停や審判で金額が決まったのに支払われない場合の対応は、債務名義(調停調書・審判書・強制執行認諾文言付きの公正証書など)があるかどうかで大きく変わります。債務名義があれば、次の手段に進めます。
- 履行勧告…家庭裁判所が相手に支払いを促す手続きで、費用はかからないのが通常です。強制力はありませんが、裁判所からの連絡で支払いが再開する例もあります。
- 履行命令…裁判所が期限を定めて支払いを命じるもので、正当な理由なく従わない場合には過料の制裁が定められています。
- 強制執行(差押え)…給与や預貯金などを差し押さえる手続きです。婚姻費用や養育費のような扶養義務等にかかる債権では、一般の債権より広い範囲(手取り額のおおむね2分の1まで)の差押えが認められており、一定の要件のもとで将来支払われる分についてもまとめて差し押さえられる制度があります。相手の勤務先や口座が分からない場合には、裁判所を通じた第三者からの情報取得手続きを利用できることもあります。
逆に、口約束だけで債務名義がない場合は、まず調停・審判で「決めてもらう」ところからのスタートになります。この差は非常に大きいため、話し合いで合意できた場合でも公正証書にしておくことを強くおすすめします。
熊本・八代で別居中の生活費にお困りの方へ
婚姻費用の問題は、離婚そのものの話し合いと切り離せません。婚姻費用を確保できているかどうかは、その後の財産分与や親権の話し合いを落ち着いて進められるかにも直結します。逆に、生活費が途絶えたまま交渉に臨むと、不利な条件でも早く終わらせたいという気持ちになりがちです。
また、別居の始め方そのものが後の請求に影響することもあります。別居前に確認しておきたい点は離婚前に別居するメリットと注意点にまとめていますので、これから別居を考えている方はあわせてご確認ください。弁護士法人Si-Lawは熊本市と八代市に拠点を置き、熊本家庭裁判所本庁・八代支部いずれの手続きにも対応しています。
まとめ
婚姻費用を払ってもらえないときの要点を整理します。第一に、婚姻費用は請求した時点からの分が認められるのが原則ですので、まず日付の残る形で請求してください。第二に、応じない相手には家庭裁判所の婚姻費用分担調停という手段があります。第三に、決まったのに払われない場合は、履行勧告・履行命令・強制執行と段階的な対応が可能で、給与の差押えは扶養義務等にかかる債権として広い範囲が認められています。
もっとも、どの手続きが最短で生活費の確保につながるかは、相手の収入形態や資産、別居に至った経緯によって異なります。個別の事情により結論は変わりますので、生活費が途絶えている状況であれば、できるだけ早い段階でご相談ください。
監修:弁護士法人Si-Law(熊本県弁護士会所属・熊本市/八代市) 弁護士紹介 / 最終更新:2026年9月7日
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案の結論を保証するものではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。