ある日突然、不倫相手の配偶者から、あるいは弁護士名義の「ご通知」や内容証明郵便が届き、高額な慰謝料を求められた――。そんなとき、多くの方は「すぐに払わないと大ごとになるのでは」「家族や職場に知られたらどうしよう」と強い不安を感じます。不倫の慰謝料を請求されたときは、慌てて支払ったり署名したりする前に、請求の中身と支払義務の有無を一つずつ確かめることが大切です。そこで本記事では、請求を受けた側がまず確認すること、支払義務がないとされうる場合、金額が見直されうる事情、示談書で気をつける点を、離婚・不倫のご相談を多く扱う弁護士の視点から解説します(2026年9月時点の情報です)。

まず確認すること|誰から・何を・いつまでに求められているか
請求は、配偶者本人からのメールや手紙、弁護士からの通知書、内容証明郵便などさまざまな形で届きます。最初に、次の点を書面で確認しておきましょう。
- 請求者は誰か(配偶者本人か、代理人の弁護士か)
- 請求の根拠として書かれている事実(交際の時期・期間・回数など)が実際と合っているか
- 請求額と支払期限、回答期限
- 謝罪文や接触禁止、退職など、金銭以外の要求が含まれていないか
回答期限を過ぎても直ちに法的な効果が生じるわけではありませんが、無視を続けると訴訟を起こされる可能性が高まります。一方で、感情的な返信や、事実と違う内容を認める書面は、後の交渉や裁判で不利な証拠として扱われることがあります。まずは落ち着いて事実を整理し、返答の内容は慎重に検討してください。
支払義務がないとされうる場合
不倫の慰謝料は、民法上の不法行為(民法709条)にもとづく損害賠償です。そのため、次のような事情があると、支払義務が否定されたり、大きく限定されたりする可能性があります。
- 肉体関係(不貞行為)がなかった:食事やメッセージのやり取りだけでは、原則として不貞行為にあたらないと考えられています(ただし態様によっては別の評価もありえます)。
- 既婚者だと知らず、知らないことに落ち度もなかった:相手が独身だと偽っていた、婚活サービスで知り合ったなど、既婚と気づけなかった事情がある場合です。
- 相手の夫婦関係がすでに破綻していた:長期間の別居など、客観的に婚姻関係が壊れていたと言える場合です。「夫婦仲は冷めている」と聞かされていただけでは足りないとされることが多い点に注意が必要です。
- 時効が成立している:損害と加害者を知った時から3年、不貞行為の時から20年を過ぎると、請求権は時効によって消滅しうるとされています(民法724条)。
どの事情にあたるかは証拠の有無で結論が変わるため、手元のメッセージや日程の記録は削除せず保管しておきましょう。不貞行為の証拠がどのように評価されるかは、不貞行為の証拠はどこまで必要?評価されやすい証拠で詳しく解説しています。

金額が見直されうる事情と慰謝料の目安
支払義務自体は否定できない場合でも、請求額がそのまま認められるとは限りません。これまでの裁判例や実務で見られる一般的な目安としては、不倫が原因で離婚に至った場合でおおむね100万〜300万円程度、離婚に至らなかった場合は数十万〜100万円程度とされることが多いものの、これは公的な統計に基づく確定値ではなく(2026年9月時点)、個別の事情によって大きく異なります。
金額の判断で考慮されやすい事情には、次のようなものがあります。
- 交際の期間や頻度(短期間・少数回か)
- どちらが積極的に関係を求めたか
- 不倫が夫婦関係に与えた影響(離婚・別居に至ったか、もともと関係が悪化していたか)
- すでに配偶者側(不倫をした既婚者本人)から支払いがあったか
- 謝罪や関係解消など、請求を受けた後の対応
請求を受けた側の収入や資力は、慰謝料の額そのものを決める事情ではないとされていますが、分割払いなど支払方法の交渉では現実的な要素になります。請求する側の流れや相場の考え方は、不倫(不貞行為)の慰謝料請求の流れもあわせてご覧ください。
求償権と示談書|合意する前に確認したいポイント
不倫は、不倫をした既婚者と不倫相手の2人による「共同不法行為」と考えられています。そのため、不倫相手が慰謝料の全額を支払った場合、既婚者本人の負担部分をその本人に請求できる可能性があります(これを求償権といいます)。夫婦が離婚しない場合、求償すると結局は同じ家計にお金が戻ってしまうため、実務では「求償権を行使しない代わりに金額を調整する」という形で合意することもあります。
示談書(合意書)に署名する前には、少なくとも次の点を確認しましょう。
- 清算条項:この合意以外に互いに請求しないことが明記されているか。これがないと、後から追加の請求を受けるおそれがあります。
- 求償権の扱い:放棄するのか、放棄するならその分が金額に反映されているか。
- 接触禁止・口外禁止の範囲:違約金の額が過大でないか、職場で会わざるを得ない場合の扱いなど、守れる内容になっているか。
- 支払方法:一括か分割か、分割の場合に一度でも遅れたら残額を一括で払う条項(期限の利益喪失)の条件。
相手方が用意した書面をそのまま受け入れる必要はありません。内容に疑問がある場合は、署名前に弁護士へご相談ください。
熊本・八代で訴訟を起こされた場合の手続き
話し合いでまとまらない場合、請求者は裁判所に損害賠償請求訴訟を起こすことがあります。不倫慰謝料の請求は夫婦間の離婚事件とは異なり、原則として家庭裁判所ではなく地方裁判所または簡易裁判所で扱われます(請求額が140万円を超えるかどうかで分かれるのが原則です)。熊本県内であれば、熊本地方裁判所の本庁や八代支部などが担当することが考えられますが、どの裁判所になるかは当事者の住所などで決まるため、訴状の記載や熊本地方裁判所の公式サイトでご確認ください(2026年9月時点)。
訴状が届いた場合、指定された期日に出頭せず答弁書も出さないと、請求をそのまま認める判決が出るおそれがあります。訴訟に進んでからも和解で終わるケースは多いため、早めに方針を決めて対応することが重要です。弁護士への相談を検討されている方は、弁護士紹介や不倫問題は弁護士に相談すべき?も参考にしてください。
まとめ
不倫の慰謝料を請求されたときは、放置も即答も避け、まず請求の中身と事実関係を確認することが出発点です。肉体関係の有無、既婚と知っていたか、相手の夫婦関係の状況、時効といった事情によっては、支払義務が否定されたり金額が見直されたりする可能性があります。また、合意する際は清算条項や求償権の扱いなど、示談書の中身をよく確認することが大切です。事案によって適切な対応は異なりますので、ご不安な方は早めに弁護士へご相談ください。
監修:弁護士法人Si-Law(熊本県弁護士会所属・熊本市/八代市) 弁護士紹介 / 2026年9月18日 公開
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案の結論を保証するものではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。