「離婚の時に養育費を決めたのに、ある月から振り込まれなくなった」「口約束だけで、そもそも取り決めの書面がない」――養育費の未払いは、離婚後のご相談で多いお悩みの一つです。子どもの生活費に直結する問題なので、泣き寝入りせずに取れる手段を知っておくことが大切です。
そこで本記事では、養育費を払ってくれないときに使える手続(履行勧告から強制執行まで)と、2026年4月に施行された民法等の改正(先取特権・法定養育費)のポイントを、熊本・八代で離婚のご相談を多く扱う弁護士の視点から解説します。※本記事は2026年10月時点の情報です。制度の詳細や金額は変わることがあるため、最新の内容は裁判所・法務省の公式情報でご確認ください。

まず確認したい:養育費の取り決めはどんな形で残っているか
未払いへの対応は、「どんな書面で養育費を決めたか」で大きく変わります。まずは手元の書類を確認しましょう。
- 調停調書・審判書・判決:そのまま強制執行の申立てに使えるのが原則です。
- 強制執行認諾文言付きの公正証書:同じく、裁判を経ずに強制執行を申し立てられるのが原則です。
- 離婚協議書などの私的な書面:従来は強制執行の前に裁判手続が必要でしたが、2026年4月施行の改正で、一定の範囲では書面があれば差押えを申し立てられる場合が設けられました(後述)。
- 口約束のみ:まず養育費の請求調停などで金額を確定させる必要があるのが一般的です。
公正証書の作り方は離婚の公正証書の作り方と内容、養育費の決め方や相場は養育費の相場と決め方で解説しています。
強制執行の前に:履行勧告・履行命令という方法
調停や審判で養育費を決めている場合は、家庭裁判所に「履行勧告」を申し出ることができます。裁判所が相手に支払うよう働きかける手続で、費用はかからないとされています。ただし、従わなくても罰則などの強制力はありません。
さらに「履行命令」という手続もあり、正当な理由なく従わないと過料の制裁がありうるとされています。いずれも「まず穏やかに支払いを促したい」ときの選択肢で、相手が支払う意思はあるものの滞っているだけ、という場合に向いています。一方、相手が明確に拒否している場合や連絡が取れない場合は、強制執行を視野に入れるのが現実的です。事案によって適切な対応は異なります。
強制執行(差押え)の流れと、給料の差押えの特徴
強制執行は、相手の給料や預貯金などの財産を裁判所を通じて差し押さえ、未払い分を回収する手続です。申立先は、一般に相手(債務者)の住所地を管轄する地方裁判所です。たとえば相手が熊本市内に住んでいれば熊本地方裁判所、というように、家庭裁判所ではなく地方裁判所になる点に注意が必要です(具体的な管轄は裁判所の公式サイトでご確認ください)。
一般的な流れは次のとおりです。
- 取り決めの書面(債務名義など)と、未払い額を整理する
- 相手の勤務先・預金口座などの手がかりを調べる
- 地方裁判所に差押えを申し立てる
- 差押命令が相手の勤務先などに送られ、支払いを受ける
養育費の給料差押えには、通常の借金などと異なる特徴があります。
- 差し押さえられる範囲が、原則として手取り給与の2分の1までと広い(通常の債権では原則4分の1)とされています。
- すでに滞っている分だけでなく、将来支払期が来る養育費についても、継続的に差し押さえられる制度があります。
なお、勤務先に差押命令が届くため、相手の職場との関係に影響しうる点は、申し立てる前に理解しておく必要があります。

相手の勤務先や財産が分からないとき
「転職したらしいが勤務先を知らない」「預金口座が分からない」というケースでは、強制執行の前提となる情報が足りません。この場合に、民事執行法の令和2年改正で整備された次の手続を使える場合があります。
- 財産開示手続:相手に裁判所で財産の状況を陳述させる手続です。正当な理由なく出頭しなかったり虚偽の陳述をしたりすると、刑事罰の対象となりうるとされています。
- 第三者からの情報取得手続:金融機関や、勤務先に関する情報(市区町村・年金事務所などが保有する情報)を、裁判所を通じて取得する手続です。養育費の債権については、勤務先の情報の取得が認められる場合があります。
要件や必要書類は事案によって異なり、2026年4月の改正で手続の使い勝手も見直されています。どの手続が使えるかは、取り決めの種類や相手の状況によって変わるため、個別に弁護士へ確認されることをお勧めします。
2026年4月施行の改正で何が変わったか(先取特権・法定養育費)
2026年4月1日に施行された改正民法等では、養育費の確保のために主に次の点が見直されたとされています。
- 養育費の先取特権:養育費の債権に先取特権が認められ、離婚協議書など私的な書面があれば、一定額の範囲内で、判決や公正証書がなくても差押えを申し立てられる場合があります。この「一定額」は法務省令で定められ、子1人あたり月額8万円とされる旨が各種の解説で紹介されています。実際の運用や範囲は、法務省・裁判所の最新の案内でご確認ください。
- 法定養育費:離婚時に養育費の取り決めをしていなかった場合でも、一定額(子1人あたり月額2万円と紹介されています)を請求できる制度が設けられました。適用される範囲や時期には条件があるため、ご自身の離婚時期が対象かどうかは個別に確認が必要です。
これらは「書面を作っておけば強制執行しやすくなる」「取り決めがなくても最低限の請求の余地がある」という方向の改正ですが、金額や要件には細かな条件があります。改正前に離婚した方に適用があるかなど、個別の事情により異なります。
時効と、回収できないリスクにも注意
養育費は、請求せずに放置すると時効にかかる可能性があります。一般に、当事者間の合意で決めた養育費と、調停・審判・判決で確定した養育費とで、時効の期間の扱いが異なるとされています。支払いが滞った時点で早めに動くことが、結果的に回収額を増やすことにつながります。
また、強制執行は申立てをすれば必ず全額回収できる手続ではありません。相手に差し押さえられる財産がなければ、回収が難しい場合もあります。だからこそ、相手の勤務先や財産の手がかりを早めに押さえておくことが重要です。DVやつきまといの不安がある場合は、相手に居場所が知られないよう、裁判所への申立て時や期日前に配慮を申し出るようにしてください。
まとめ:まず書面を確認し、早めに相談を
養育費が払われないときは、①取り決めの書面の種類を確認する、②履行勧告などで穏やかに促すか、強制執行に進むかを判断する、③相手の勤務先・財産を調べる、という順で考えるのが基本です。2026年4月の改正で、書面があれば差押えしやすくなる場面が増えましたが、要件は細かく、事案によって適切な手続は異なります。
養育費の未払いでお困りの方は、弁護士紹介ページをご覧のうえ、弁護士法人Si-Law(熊本・八代)の初回無料相談をご利用ください。離婚後の手続全般については、養育費の増額・減額は認められる?もあわせてお読みください。
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監修:弁護士法人Si-Law(熊本県弁護士会所属・熊本市/八代市) 弁護士紹介 / 2026年10月2日 公開
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