離婚の親権は父母のどっちが有利なのか――「親権は母親が有利だと聞いた」「父親では難しいのではないか」というご不安は、離婚のご相談で最初に出てくることの多いテーマです。結論から申し上げると、親権者は父親か母親かという性別で決まるものではなく、家庭裁判所は「子の利益」を基準に、これまでの子育ての実際とこれからの生活の見通しを総合的に見て判断するのが原則です。さらに2026年4月1日には、離婚後も父母の双方を親権者と定められる共同親権を含む改正民法が施行され、親権の決まり方そのものが変わりました。
ここでは、熊本市・八代市で離婚や不倫のご相談を多く扱う弁護士の視点から、「母親が有利」と言われる理由の中身、実際に見られている事情、父親が親権を取るために問われること、そして法改正後の手続の流れまでを整理します。

親権とは何か
親権は、大きく二つの内容をもつとされています。一つは身上監護権で、子と一緒に暮らし、日常の世話や教育、しつけ、進学先の決定などを行う権限です。もう一つは財産管理権で、子の財産を管理し、子に代わって契約などの法律行為を行う権限です。未成年の子がいる夫婦が協議離婚をする場合、離婚届に親権者を記載しなければ受理されないのが原則で、親権者を決めないまま離婚だけを先に成立させることは基本的にできません。そのため、他の条件がまとまっていても親権だけが折り合わず、話し合いが長引くケースは実務上よく見られます(2026年9月時点の制度に基づく解説です)。
親権者はどのような手続で決まるか
まずは夫婦の話し合い(協議)で決めるのが出発点です。協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に離婚調停(夫婦関係調整調停)を申し立て、調停委員を交えて話し合うことになります。調停でも折り合わない場合は、事案に応じて審判や離婚訴訟に進み、裁判所が判断します。裁判所は、どちらを親権者とすることが子の利益にかなうかという観点から検討するとされ、家庭裁判所調査官が子の生活状況や意向を調査することもあります。手続の流れは熊本で離婚調停を申し立てるにはもあわせてご覧ください。
「母親が有利」と言われる理由の実際
公表されている統計でも、母親が親権者と定められる例が多い傾向が示されているとされます(割合は年によって異なるため、最新の公表資料をご確認ください)。もっとも、これは法律に「母親を優先する」と書かれているからではありません。重視されるとされるのは、これまで主に子の世話をしてきたのは誰かという主たる監護者の視点と、子の生活環境をむやみに変えない方がよいという監護の継続性の考え方です。特に乳幼児期には、それまでの生活実態が判断に影響しやすいという実情もあります。日本の家庭では母親が育児の中心を担ってきた例が多かったため、その結果として母親が親権者となる場面が多く見えている、という説明の方が実態に近いといえます。
逆に言えば、父親が日常的に子の食事や送り迎え、通院などを担ってきた場合や、父親側の監護態勢の方が子の生活の安定につながると評価される場合には、父親が親権者と定められる例もあります。性別だけで結論が決まるわけではありません。
判断で見られる主な事情
実務で検討されることが多い事情としては、次のようなものが挙げられます。
- これまでの監護実績(食事、入浴、寝かしつけ、送り迎え、通院、学校行事などを誰が担ってきたか)
- これからの監護態勢(住居、就労状況、勤務時間、保育所や学童の利用、祖父母など協力者の有無)
- 子の年齢と意思(年齢が上がるほど子自身の意向が考慮されやすいとされます)
- 生活環境の安定(転居や転校を伴うか、住み慣れた地域で生活を続けられるか)
- 他方の親と子との面会交流に対する姿勢
いずれも総合考慮であり、どれか一つが当てはまれば結論が決まるというものではありません。収入の多さだけで決まるわけでもなく、経済的な差は養育費で調整される場面も多くあります。養育費の考え方は養育費の相場と決め方で整理しています。
実務上よく問題になる点
ご相談の中でよく問題になるのが、別居の始め方です。相手に無断で子を連れて出た場合、その経緯や態様によっては後の手続で問題視されることがあり、反対に子を置いて家を出たことが監護実績の評価に影響することもあります。また、別居中にどちらがどのように子の世話をしているかは、判断の材料として重く見られる傾向があります。正当な理由なく面会交流を拒み続ける姿勢が、消極的に評価される可能性もあります。ただし、これらはあくまで一般的な傾向であり、評価は個別の事情により異なります。
なお、暴力やモラルハラスメント、付きまといなどの不安がある場合は、安全の確保が最優先です。家庭裁判所の手続では、待合室を相手方と分けてもらう配慮や、書面に現住所を記載しない取扱い(住所の秘匿)を求められる場合があります。申立ての際や期日の前に、裁判所や代理人弁護士へ事情を伝えておくことが大切です。
熊本・八代で考えるときの視点
熊本や八代でのご相談では、抽象的な主張よりも、離婚後の生活を具体的に説明できるかどうかが結果的に説得力につながる場面が多くあります。今の保育園や小学校に通い続けられるのか、勤務先までの通勤時間とお迎えの時間は両立するのか、近くに祖父母など送迎や急な発熱時に頼れる人がいるのか。熊本市内から八代市へ転居すれば、学校や友人関係、通院先が変わることもあります。こうした点を一つずつ整理していく作業が大切です。
話し合いがまとまらず調停となる場合、家事調停は原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所などに申し立てます。熊本県内には熊本家庭裁判所の本庁のほか、玉名・山鹿・阿蘇・八代・人吉・天草の各支部があり、お住まいの地域によって手続を行う庁が変わります。申立ての手数料である収入印紙は法令で全国一律に定められていますが、予納郵便切手の金額や内訳は庁によって異なるため、申立て先の裁判所へご確認ください。管轄や必要書類、費用の取扱いは変更されることがあります(2026年9月時点の情報です。最新の情報は裁判所の公式サイトでご確認ください)。
2026年4月の法改正で親権の決まり方はどう変わったか
親権について考えるうえで、まず押さえておきたいのが法改正です。父母の離婚後の子の養育に関する民法等の改正法が2026年(令和8年)4月1日に施行され、離婚後の親権について、これまでのように必ずどちらか一方に決めるのではなく、父母の双方を親権者と定めること(共同親権)も選べる仕組みに変わりました。「親権はどっちが有利か」という問いの前提そのものが動いた、と言ってもよい改正です。
改正後の枠組みは、おおむね次のように整理されています(2026年9月時点の一般的な説明です)。
- 離婚するときは、父母の協議で、双方を親権者とするか、一方のみを親権者とするかを定めるのが出発点とされています
- 協議が調わない場合は、家庭裁判所が、子の利益の観点から、どちらの形が子にとって最善かを判断するとされています
- 父母の一方から他方への暴力や子への虐待のおそれがあるなど、父母が共同して親権を行うことが困難と認められる場合には、一方のみを親権者としなければならないとされています
- 双方を親権者と定めた場合でも、監護及び教育に関する日常の行為や、急迫の事情があるときは、一方が単独で親権を行使できるとされています
- 双方を親権者としたうえで、子と同居して現実に世話をする監護者を別に定めることもできるとされています
つまり、共同親権を選んだからといって、進学先や医療の判断を一つひとつ二人で相談しなければ何も決められない、という制度ではないと説明されています。もっとも、何が「日常の行為」にあたるのか、「急迫の事情」がどこまで認められるのかは、今後の運用の積み重ねによる部分もあります。実際の線引きは個別の事情により異なりますので、進学や転居、手術など重い判断が控えている場合は、離婚条件を決める段階で取り決めの内容を具体的にしておくことが望ましいといえます。
すでに離婚して一方のみが親権者となっている場合も、改正法の施行後は、家庭裁判所に親権者変更の申立てをして、双方を親権者とする形に変更することが可能とされています。ただし、申し立てれば当然に認められるわけではなく、子の利益のために必要と認められるかどうかが判断されます。変更の考え方は離婚後の親権者変更は認められる?もあわせてご覧ください。
父親が親権を取るために実際に問われること
「父母のどちらが有利か」を気にされる方は多いのですが、ご相談の現場で結論を分けているのは、性別ではなく説明できる材料がどれだけそろっているかです。父親側から親権を希望する場合に、実際に問われることが多いのは次のような点です。
- これまでの関わりの具体性――「育児に協力してきた」ではなく、平日の朝食や寝かしつけ、通院の付き添い、保育園の送迎、学校行事への出席などを、どの程度の頻度で担ってきたか
- 離婚後の生活の現実味――勤務時間とお迎えの時間が両立するか、時短勤務や配置転換の相談が可能か、住まいは子の通園・通学圏内か
- 頼れる人の有無――急な発熱や出張のときに祖父母や親族の協力を得られるか、その方の年齢や居住地はどうか
- 相手方と子との関係をどう考えているか――他方の親と子が会う機会を確保する姿勢があるか。親子交流に非協力的な態度は、消極的に評価される可能性があります
- 別居の進め方――子を置いて家を出た場合、その後の監護実績の評価に影響することがあります。反対に、無断で子を連れて出る対応も、経緯や態様によっては問題視されることがあります
母親側にとっても、見られている事情は同じです。これまで主に子の世話をしてきたという実績があっても、離婚後の生活の見通しを具体的に説明できなければ、その強みが十分に伝わらないことがあります。いずれの立場でも、日々の記録(連絡帳、通院の記録、保育園や学校とのやり取り、家計の状況)を残しておくことが、後の手続で説明の裏づけになります。親子交流の取り決め方は親子交流(面会交流)を拒否されたらでも触れています。
親権が決まるまでの期間・費用と、よくあるご質問
手続にどれくらいかかるのかも、判断の材料になります。協議で折り合えば離婚届の提出で足りますが、調停となった場合は、申立てから第1回期日まで1か月前後、その後は1か月から1か月半ほどの間隔で期日が入るのが一般的とされ、争点が親権に絞られていても数か月から1年程度を要する例があります。家庭裁判所調査官による調査が入る場合は、さらに期間を見込む必要があります。
費用については、調停の申立手数料として1件につき1,200円分の収入印紙が必要とされるほか、連絡用の予納郵便切手が必要です。切手の金額や内訳は庁によって異なるため、申立て先の裁判所へご確認ください(2026年9月時点。最新の取扱いは裁判所の公式サイトでご確認ください)。弁護士に依頼する場合の費用は、事案の内容や進み方によって異なります。
ご相談で特に多いご質問を整理します。
- 親権と監護権を分けられますか――分けること自体は可能とされていますが、日常の世話と法律行為の担い手が分かれることで後に調整が必要になる場面もあり、慎重な検討が必要です
- 子どもの気持ちは聞いてもらえますか――親権者の指定や変更の審判では、子が15歳以上の場合にはその陳述を聴かなければならないとされています。15歳未満でも、年齢や発達の程度に応じて意向が考慮されます
- 一度決めた親権者は変えられますか――父母の協議だけで変更することはできず、家庭裁判所の手続が必要とされています
- 養育費を払わないと親権に影響しますか――養育費の不払いは、親としての責任の果たし方として評価に関わりうる事情ですが、それだけで結論が決まるものではありません
- 再婚したら親権はどうなりますか――再婚それ自体で当然に親権が移るわけではありません。再婚相手と子が養子縁組をする場合には、親権の所在や養育費の負担に影響が生じることがあります
熊本市・八代市でのご相談でも、共同親権を選べるようになったことで、「相手と一切関わりたくないが、子のためにどうするのがよいか」という新しい悩み方が増えています。制度が変わった直後で運用が固まりきっていない部分もありますので、迷われた段階で一度ご相談いただくのが安全です。
まとめ
親権者は、母親だから、父親だからという理由で決まるものではありません。実際に見られているのは、これまで誰が主に子の世話をしてきたか、そして離婚後に子が安定した生活を続けられる態勢がどちらにあるか、という点です。「母親が有利」と言われる背景には、こうした判断の枠組みと日本の家庭の実情が重なっている面があります。もっとも、結論は個別の事情により大きく異なります。別居の進め方や別居中の子との関わり方は後の判断に影響しうるため、動き出す前の段階で状況を整理しておくことが望ましいといえます。
監修:弁護士法人Si-Law(熊本県弁護士会所属・熊本市/八代市) 弁護士紹介 / 最終更新:2026年9月7日
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案の結論を保証するものではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。